2015年3月11日

八郷の「見所」


 午後4時過ぎ。羽鳥から八郷盆地に戻ると、陽は西に傾き、斜めの光が小麦畑を照らしている。しばらくぶりに出会った緑色の広がりに魅せられて、車を止めてじっと見入ってしまった。畑の向こうに見える山々の谷は、すでに翳り始めて、陽の当たった斜面とのコントラストがはっきりとしている。静かだ。

 ときどき、知人から八郷の見所はどこだと聞かれることがある。そんなとき、一口に答えるのが難しい。八郷には、たいして有名な寺社仏閣も特別に風光明媚な場所もあるわけではない。テーマパークもショッピングセンターもない。それでも、訪れた多くの人は「八郷が大好き」だという。「なぜか心が休まる」という。僕の友人は、八郷に来て「ここには安定感がある」といっていた。安定感は安心感と言い換えてもいい。生きて行くうえでの安心感、安定感。

 筑波山に見守られながら、周囲を里山に優しく抱かれて、そこから流れ出る水が田畑を潤し、食料や果物が自給できる土地。近くの森に入れば、住む家を建てる木材や燃料などが容易に確保できた環境。こうした美しく豊かな土地が育んだ人と人の繋がり。このような八郷の土地が、長い年月をかけて「心地良さ」や「安心感」を醸成したのにちがいない。それを訪れた人は無意識に感じ取るのだろう。これこそ「八郷の見所」だと言いたいが、言葉にするのは難しい。ただ、写真のような静かな光景を見せるだけだ。(是非、写真をクリックして大きな画面で見て欲しい)